餌料生物培養

アルテミア培養

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商品詳細

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はじめに

アルテミアは商業的に乾燥シスト形態で取り引きされることが多いため多くのアルテミア養殖の到達点はシスト収穫にあります。
シストは、高塩分濃度、低酸素、限界温度、食物の枯渇などの環境悪化により産出されます。
養殖現場においては製塩技術を応用して高塩分濃度の環境を再現しシストの産出を行うことが多いかと思います。
また高塩分濃度の鹹水(かんすい)はシスト殺菌の工程にも活用されます。
一方で生息環境が良好であればアルテミアは卵胎生として幼生を産出します。
ここでは適応能力と繁殖能力に特に優れていることから世界中で養殖株として使用されている有性生殖を行うArtemia franciscanaの低塩分濃度培養によるバイオマス生産(量を増やすという意味で使用)について触れたいと思います。

アルテミアバイオマス生産

日本においてはアルテミアは孵化直後のノープリウスを栄養価的にも重視する傾向が強く本格的なアルテミアバイオマス生産は行われていません。
アルテミアバイオマス生産を行うことで水産生物の成長段階に応じたさまざまなサイズのアルテミアの選択給餌を行うことが可能です。
これにより被養水産生物は効率的な採餌ができるのでエネルギー収支バランスの向上に繋がります。
また成長したアルテミアはノープリウスよりタンパク質含有量が多く、特に必須アミノ酸が豊富で栄養的に優れていることが知られています。

培養水

アルテミアの孵化には人工海水か粗塩を用いて2~3%の塩分濃度の孵化水を作るというのが一般的な手法とされていますが残念なことにアクア業界でエビデンスに基づいた説明を聞く機会はありません。
アルテミアは世界中の塩湖に生息し、塩湖の起源により組成は塩化物系、硫酸塩系、炭酸塩系、リチウム系など千差万別です。
また気候変動による水質変化の激しい塩湖も存在します。

学術的には、「アルテミア属は、多くの超塩水環境(内陸および沿岸の超塩水湖)に偏在し、塩化物、硫酸塩、または炭酸塩、および2つ以上の陰イオンを組み合わせた水に生息する可能性があり(Stappen 2002; El-Bermawi et al, 2004)、塩分濃度が 10g/L(Abatzopoulos et al., 2006a, Abatzopoulos et al., 2006b)から 340g/L (Post & Youssef, 1977)まで幅広い環境に適応することができる生物」であると言われています。

自然界に於いてはアルテミアは常に捕食対象となるため水中の捕食者の生存可能な塩分濃度の範囲を除く上下の閾値までが適応範囲と言えます。

アルテミアの養殖は沿岸部の塩田や内陸の塩湖で海水や鹹水の天然資源を利用して行われます。
そのため孵化においても海水や鹹水を利用することが実用的かつ経済的であることからエンドユーザーが行う孵化においても海水に近い2~3%の塩分濃度が推奨されているのではないでしょうか。
孵化後においても同様の飼育水で培養が可能です。

しかしながら孵化だけでなく培養まで人工海水などを使用することはコスト増加を伴うことになりますので、可能な限りのコスト削減が課題となります。

近年、より効率的な養殖を達成するために浸透圧調整ストレスを低減した低塩分濃度の人工飼育水が発明され水産業界で導入されています。

水中で生活する多くの生物は、体液(血液)と周囲環境との塩分濃度の差から生じる水分移動をエネルギーを使い調節し体液の水分量の恒常性を保ち続けることで生命を維持します。
周囲環境の塩分濃度が体液と等しい等張液であれば浸透圧調整にかかる消耗が無くなることからエネルギー収支バランスが改善し成長速度が速くなるという原理です。

生物の体液の組成は海水の組成に近く、塩分濃度は海水の1/4と言われています。
現在最も支持されている生命起源論によると、約35~40億年前に地球上初の生命体が海底熱水噴出孔付近で誕生し海水中の成分を直接取り込んでいたとあり海水そのものが体液であったと言われています。
また、当時の原始海水は現在の海水より塩分濃度が低かったとされています。

一方で生物の体液組成は海水組成よりもナトリウム量に対するカリウム量の比率が高いことやリン、遷移金属の含有量多いことが長年の謎とされ生命の起源は海では無くかつてチャールズ・ダーウィンが予測したような「Warm Little Pond(暖かい小さな池)」にあり、火山凝縮液から構成された内陸の温泉であったという説も存在します。
参考/米国科学アカデミー紀要
Mulkidjanian AY, Bychkov AY, Dibrova DV, Galperin MY, Koonin EV. Origin of first cells at terrestrial, anoxic geothermal fields. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Apr 3;109(14):E821-30. doi: 10.1073/pnas.1117774109. Epub 2012 Feb 13. PMID: 22331915; PMCID: PMC3325685.

生物の起源が何処かという議論は扨置き、カリウムは体液の浸透圧を調整する点に於いてナトリウムと拮抗関係にありバランスが大事であると言われます。

これらのことを総括して体液に対する等張液は海水を1/4に希釈し、ナトリウムとカリウムのバランスを少し補正することで再現できることが予測されます。

実際のところ20世紀初頭、海水組成と血液組成に類似性があることを発見したフランスの生物学者ルネ・カントンは1904年に出版した著書「L'eau de mer, milieu organique」の中で、私たちの内部環境は生命の起源における海水であると結論付け、滅菌水で希釈し人間の血液の浸透圧に合わせた「カントンプラズマ」と呼ばれる滅菌海水を用いてチフスやコレラ、結核、栄養失調などに苦しむ貧困な患者に静脈注射を無償で施術したり、第一次世界大戦に於いて負傷者に薄めた海水の輸液を行うなど多くの命を救ったと言われています。

養殖に於いては特許の権利化には至っていないものの広島県が出願した「海産魚類における仔稚魚の抗病的飼育方法」(特開2006-288234)という技術があり、仔魚の変態期の体力消耗が激しい一定期間のみ海水を真水で1/4或いは1/2に希釈し浸透圧調整の負担を無くすことで斃死を予防し薬剤を使用しない安全な種苗生産を実現しようとするものです。

前述のように孵化したアルテミアは卓越した浸透圧調整機能を有するため市販の人工海水の素を通常の1/4(8.75g/L)に調整し飼育水を再現するだけで孵化から培養まで一貫して行えます。
最も手軽な方法でかなりのコスト削減が達成できるのではないでしょうか。

一方で乾燥した状態のシストからの孵化ついては浸透圧の影響が大きく関わります。

国際連合食糧農業機関(FAO)によると最適な塩分量は、5~35gl-1(5~35g/L)の範囲であり、塩分濃度が低いと孵化時間が早く、孵化率が上がり、ノープリウスの体重(乾燥重量)も重くなるとして概ね次の様に敷衍しています。

乾燥したシストは吸湿性に優れ再水和により素早い水分吸収が進みますが、同時にシスト内の好気的代謝も進みシストに蓄積されたトレハロースはエネルギー源としてのグリコーゲンと吸湿剤としてのグリセロール(グリセリン)へ変換されていきます。
吸湿剤としてのグリセロールが増加するとシスト内への水分吸収は一気に加速し限界に達するとシストが破裂することで孵化のプロセスは次のアンブレラ期(注)へ突入します。
すなわちアルテミアの割卵はトレハロースをグリセロールへ変換して行う浸透圧調整の賜物と言えます。
尚、シスト内に蓄えられたグリセロールは割卵と同時に孵化水へ放出されますので孵化水をそのまま飼育水とすることは出来ません。

ここで孵化水の塩分濃度が高いとシストへの水分吸収が阻害されより多くのグリセロールが浸透圧調整に消耗されてしまいます。
トレハロースはエネルギー源としてのグリコーゲンにも変換されますが結果として変換できるグリコーゲン量は減少しノープリウスに蓄えられる量も減少することから痩せたノープリウスが産出されることになります。

(注)アンブレラ期のノープリウスは孵化膜に覆われて卵殻にぶら下がっている状態が多くまだ自由に泳ぐことはできません。
孵化酵素が頭部領域から分泌されることで孵化膜が破れノープリウスは自由に泳ぐことができるようになりますが、孵化酵素の至適pHは8以上と言われています。

アンブレラ期のノープリウス

次に浸透圧を考慮したアルテミア(など)の培養水を考えてみます。
浸透圧を考慮した人工飼育水と言うと学校法人加計学園が特許を保有する「好適環境水」(特許番号: 5062550, 4665252, 5364874, 5487378, 4665258, 5487377, 5578401, 6056949)と株式会社関門海が特許を保有する「養殖魚用の人工飼育水の製造方法」(特開2012-135285)が有名です。

好適環境水と言えば真水にナトリウム、カリウム、カルシウム(など)を比重1.004以上、天然海水中の濃度以下に添加した水棲生物の飼育水で海水から必要な成分のみを研究し厳選した人工海水として知られています。

名称\塩類(g/L) 塩化ナトリウム
(NaCL)
塩化カリウム
(KCl)
塩化カルシウム
(CaCl2)
好適環境水 7.0587 0.18125 0.3641 7.6041

養殖魚用の人工飼育水の製造方法は複数の養殖魚の血液の浸透圧を測定し、その平均値と等しい浸透圧を人工的に再現する技術です。(下記組成表はトラフグの場合)

名称\塩類(g/L) 塩化ナトリウム
(NaCL)
塩化カリウム
(KCl)
塩化マグネシウム
(MgCl2)
硫酸マグネシウム
(MgSO4)
塩化カルシウム
(CaCl2)
養殖魚用の人工飼育水 8.5 0.24 0.42 0.51 0.32 9.99

どちらも特許出願の関係か具体的な成分表示がありますが、対象となる生物に合わせて飼育水を希釈や濃縮または別の元素を添加することが本質であるように感じます。

イギリスの臨床医、生理学者、薬理学者であるシドニー・リンガーが1882年から1885年にかけて発明した動物の体液に対する等張液であるリンゲル液は組成が以下のようになりますが、好適環境水はリンゲル液を少し希釈したような感じで再構成され、養殖魚用の人工飼育水はリンゲル液に塩化マグネシウム(MgCl2)と硫酸マグネシウム(MgSO4)を添加したような感じで再構成されています。

名称\塩類(g/L) 塩化ナトリウム
(NaCL)
塩化カリウム
(KCl)
塩化カルシウム
(CaCl2)
リンゲル液 8.6 0.3 0.33 9.23

天然海水の組成は次のように表せます。

名称\塩類(%) 塩化ナトリウム
(NaCL)
塩化カリウム
(KCl)
塩化マグネシウム
(MgCl2)
硫酸マグネシウム
(MgSO4)
硫酸カルシウム
(CaSO4)
その他
Seawater 77.9 2.1 9.6 6.1 4 0.3 100

しかし人工海水を再現するときは硫酸カルシウム(CaSO4)は古くから塩化カルシウム(CaCl2)に置き換えられてきました。
石膏の主原料である硫酸カルシウム(CaSO4)は溶解上の問題点か、石膏として析出する難点を抱えているのかもしれません。

名称\塩類(g/L) 塩化ナトリウム
(NaCL)
塩化カリウム
(KCl)
塩化マグネシウム
(MgCl2)
硫酸マグネシウム
(MgSO4)
塩化カルシウム
(CaCl2)
炭酸水素ナトリウム
(NaHCO3)
Schmalz液 28.15 0.67 5.51 6.92 1.45 5.0 47.7
Herbst液 30.0 0.8 6.6 1.3 5.0 43.7
van't Hoff液 27 0.7 3.4 2.1 1.0 5.0 39.2
谷田専治/島津忠秀 編(1975)「水産増養殖用語辞典」、緑書房、p.101(生理的溶液4.人工海水)

ここで炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)はバッファーとして添加されると推定されますので組成からは除外することにします。
ただし、前述のようにアルテミアの孵化酵素の至適pHは8以上なので孵化水に炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を添加することは効果的と言えます。

材料が決まったところで海水の組成からその他0.3%を除外し100/99.7で再計算した組成率(%)に基づきナトリムとカリウム比率を僅かに補正し塩類の合計が8.75g/Lになるようにしたものが下記の培養水です。
計算式:8.75×海水中の各種塩類(%)×100/99.7

名称\塩類(g/L) 塩化ナトリウム
(NaCL)
塩化カリウム
(KCl)
塩化マグネシウム
(MgCl2)
硫酸マグネシウム
(MgSO4)
塩化カルシウム
(CaCl2)
オリジナル培養水 6.82 0.2 0.84 0.54 0.35 8.75


記載中…

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