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多種多様にわたる光合成細菌を一括りにして扱うことが多く誤解を招く恐れがあるように感じます。
日本では「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(飼料安全法)」の規定に基づき農林水産大臣が指定した飼料添加物の中に光合成細菌は含まれていません。
「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)」に於いても同様です。
また、観賞魚の餌に関しては規制できる法的裏付けはありません。
中国では「飼料及び飼料添加剤管理条例」に基づき農業部が「飼料添加剤品種目録」を発行し、微生物添加物として光合成細菌の中から紅色非硫黄細菌であるRhodopseudomonas palustrisの1種を許可しています。
水産分野に於いても主にR.palustrisが活用され、純粋株や培地の入手も比較的容易であり、培地の成分や培養技術も広くオープン化されています。
とは言うものの中国でも光合細菌として表記されることが多く間違いや齟齬が生じるかもしれません。
培養が多岐にわたる紅色非硫黄細菌(PNSB)を単細胞タンパク質(SCP)として使用するための培養方法を順次更新していきます。
現在、光合成細菌としては入手に困ることはありませんが入手先により紅色非硫黄細菌としての質は玉石混交だと思います。
理にかなった培養を繰り返すことによって質の向上が実現できれば幸いです。
紅色非硫黄細菌(Purple Non-Sulfur Bacteria,通称PNSB)は光合成細菌(Photosynthetic Bacteria,通称PSB)として知られていますが光合成細菌の中でもRhodospirillum、Rhodomicrobium、Rhodopseudomonasに代表される酸素非発生型光合成を行う原核生物(グラム陰性菌)の一部の総称です。
光合成細菌の分類については、複雑かつ流動的であるため省略します。
細胞内部共生説によるとオルガネラの葉緑体は酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアから進化し、ミトコンドリアは一般的に好気性細菌と言われていますが紅色非硫黄細菌から進化したという説があります。
(注.起源があまりにも古く特定が困難であるため諸説あります)
嫌気性細菌として認識されることが多く不思議に思われる方も多いかもしれませんが、一般的には通性嫌気性といわれ、種により嫌気性から好気性と酸素に強い細菌と言えます。
ウィノグラツキーコラムに於いても代謝的に最も多様な細菌叢で、通常は炭素源に有機酸を好む光従属栄養生物として活動しますが、好気、嫌気、明所、暗所(水に吸収されたバクテリオクロロフィルの吸収スペクトルである赤外線の干渉については不明)、窒素・有機炭素濃度などの環境条件に応じて光独立栄養、化学合成独立栄養、化学合成従属栄養と代謝を切り替えることができます。
(注.ウィノグラツキーコラム
ウクライナ(当時はロシア帝国)の微生物学者、土壌学者であるセルゲイ・ウィノグラツキーによって発明された堆積物微生物の研究装置)
自然界では沼地、水たまり、土壌、海底堆積物(カロテノイドの吸収スペクトルであるブルーライト領域の干渉は不明)、葉の表面などに生息しますが高密度に増殖することはあまりありません。
また最近の研究で魚の消化器官にも常在する可能性が示唆されています。
参考:
Koga A, Yamasaki T, Hayashi S, Yamamoto S, Miyasaka H. Isolation of purple nonsulfur bacteria from the digestive tract of ayu (Plecoglossus altivelis). Biosci Biotechnol Biochem. 2022 Feb 24;86(3):407-412. doi: 10.1093/bbb/zbac001. PMID: 35020785.
以前は電子供与体として硫化水素を使用できないと考えられていたため紅色非硫黄細菌と呼ばれていますが、(何種類かの)紅色非硫黄細菌は少量の硫化物を分解することができるようです。
そのため紅色細菌としても良いのですが日本で民間的に行われる培養方法では硫黄源の積極的使用が見られないため紅色非硫黄細菌 (PNSB)とすることが望ましいと考えます。
尚、ウィノグラツキーコラムに於いては卵黄を硫黄源として使用するため東南アジア圏で民間的に使われるTKG培地に於いては紅色硫黄細菌(Purple Sulfur Bacteria,通称PSB)の培養も可能ではないかと考えます。
(注.鶏卵、味の素®︎、魚醤をよく混ぜてから栄養素として水に添加した培地のことで、卵かけご飯のレシピに似ているところから私が勝手に名付けた培地名なので正式な培地名ではありません。魚醤を醤油に置き換えても有効ではないかと思います。卵殻を砕いて入れると炭酸カルシウムの供給になります)
このように紅色非硫黄細菌は代謝機能が多岐にわたるため汚水処理(栄養素回収)の応用で廃棄物系バイオマスの再利用細菌としても活用され様々な培地が存在することになります。
これらを使用する場合、例えばタンパク質を有機酸に低分子化させる酸生成菌など共存細菌存在の可能性が考えられ、結果として紅色非硫黄細菌優勢のギルド型雑菌培養になる可能性があります。
もっとも嫌気条件下ではタンパク質などの有機体窒素を細胞外プロテアーゼ (ECP)により加水分解し、アミノ酸に変換したのち、脱アミノ作用によりアンモニア態窒素を生成し成長・増殖に利用することができるようです。
脱窒活性を有する種の場合は、硝酸レダクターゼ(NaR)、亜硝酸レダクターゼ(NiR)、⼀酸化窒素レダクターゼ(NOR)および亜酸化窒素レダクターゼ(N2OR)の各種酵素により硝酸塩または亜硝酸塩を最終電子受容体として外部の単純な有機物(酢酸、アミノ酸、糖など)を水素供与体として脱窒作用を行い、同化によって硝酸塩と亜硝酸塩から得られたアンモニア態窒素は成長・増殖に利用されます。
ここでアンモニア態窒素が紅色非硫黄細菌の好物であることがわかりますので培地にはアンモニア態窒素を使用することが効率的であると言えます。
汚水処理や養殖の水質浄化としての組織や機関で行われる適正な混合培養は民間的な培養とは技術の次元が違うので良いと思いますが、飼料や飼料添加物としての観点からは紅色非硫黄細菌としての栄養価値が重要であるため純粋培養を追求する方が望ましいのではないかと考えます。
その理由としては、紅色非硫黄細菌はリン酸除去能力にも優れポリリン酸蓄積菌の一種としての役目も担っています。
好気条件下では酸素を電子受容体として好気呼吸を行い細胞内に蓄積したポリヒドロキシアルカン酸(polyhydroxy alkanes acid、PHA)を酸化するとともに有機基質として酢酸,、酸メチル、アンモニア態窒素などを外部環境から取り込みながら酸化分解してエネルギーを獲得し、発生したエネルギーで廃水中のリンを過剰に吸収してポリリン酸として細胞内に蓄積します。
嫌気条件下では汚水中の短鎖脂肪酸(short chain fatty acids、SCFA)及び揮発性脂肪酸(volatile fatty acid、VFA)などの分解しやすい有機物を吸収し、SCFAからトリカルボン酸回路、グリコーゲンから解糖経路あるいは2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸経路(2-keto-3-DNA-6-phosphate glucose pathway、KDPG経路)によって提供される還元型補酵素I(コエンザイムではないかと推定)によりPHAを合成し、この過程で主に紅色非硫黄細菌体内のポリリン酸の放出を行います。
引用本文:
黄雪娇, 杨冲, 罗雅雪, 王晗, 李振轮. 光合细菌在水污染治理中的研究进展[J]. 中国生物工程杂志, 2014, 34(11): 119-124.
複雑な内容ですが、紅色非硫黄細菌は嫌気条件下でリンを放出し、好気条件下で放出した以上のリンを取り込むことができ、その量は細胞乾燥重量の15% にも達します。
(注.嫌気条件下でリン含有量は上昇し、好気条件下でリン含有量は同等ないし僅か減少するという研究結果もありますので既存の生物学的リン除去プロセスにおけるポリリン酸蓄積細菌と生理学的特性が異なる可能性があります)
引用本文:
Liang, CM., Hung, CH., Hsu, SC. et al. Purple nonsulfur bacteria diversity in activated sludge and its potential phosphorus-accumulating ability under different cultivation conditions. Appl Microbiol Biotechnol 86, 709–719 (2010). https://doi.org/10.1007/s00253-009-2348-2
適正に培養された紅色非硫黄細菌はもともとすべての必須アミノ酸からなるタンパク質含有量が高く (約60%)優良なSCP原料として注目されていますが同時にリン含有量も高い(窒素も)と推定できます。
飼料や飼料添加物目的でない培養方法で培養された紅色非硫黄細菌を餌料として直接またはアルテミアやミジンコなどに与えたのち稚魚の餌とした場合、高リン食による影響や排泄によるリン値、窒素値上昇による富栄養化を加速する可能性があります。
それでは具体的な培養方法を見ていきたいと思います。
開放型微量通気光培養
培養容器は大型で大量培養を行うことが出来ます。容器の底にエアストーンを置き、緩く送気を行い菌体ががゆっくりと上下に回転するようにします。
酸素濃度が高くなると培養速度は速くなりますが色素、タンパク質含有量は低下します。
また酸素濃度が高くなると強い光照射は生長阻害を起こします。
容器の素材や厚みなどにより紫外線、可視光線、赤外線の透過率が変わりますので複数台で培養を行う際は容器を統一しておいた方が管理が楽です。
開放型微量通気光培養は一般的に、細菌汚染度が高く、培養菌体密度は低くなると言われています。
完全密閉嫌気光培養
滅菌処理した無色透明のガラス容器、ペットボトル、ビニール袋(魚苗袋)を使用し、その中に滅菌培養液を満たして密閉し、嫌気培養環境を作ります。
ペットボトルを使用することが多いと思いますが、量を増やす場合はビニール袋を使用すると良いでしょう。
光源
コストを考えるならば太陽光
無難な培養は白熱球(波長のピークが赤外線領域にあるため光源の競合相手が少なくなる)
記載中…
温度
25℃~38℃(R.palustrisで30℃~37℃)
記載中…
ph
種により至適phは異なりますが、ph5~9の範囲で生育できます。(R.palustrisで5.5~8.5)
培養が進むと培地のpH値が上昇していきますので必要に応じ酢酸ナトリウムなどを使用しphを下げることができます。
小まめにph計測を行う方もいますが生理的酸性肥料の使用もあるので当店では基本的にph計測は行いません。
培地
紅色非硫黄細菌の培養にはこれまで見てきたように炭素、窒素、リンなどの主要な栄養元素のほかに一定量のマグネシウム、カルシウム、ナトリウムと関連する微量元素が必要です。
当店の基本培地
CH3COONa (酢酸ナトリウム) |
NH4Cl (塩化アンモニウム) |
KH2PO4 (リン酸カリウム) |
MgCl2 (塩化マグネシウム) |
CaCl2 (塩化カルシウム) |
酵母エキス | 蒸留水 |
3.5g | 1.0g | 1.0g | 0.1g | 0.1g | 0.1g | 1,000ml |
培地の説明
酢酸ナトリウム
紅色非硫黄細菌が炭素源に有機酸を好むこと、他の微生物の生育を抑制する効果が高いことから酢酸ナトリウムが使用されることが多いのではないかと考えますが、炭素源にNaHCO3(炭酸水素ナトリウム)を適量使用すると増殖に有効である研究結果もありますので2.0g加えても良いと思います。
炭酸水素ナトリウムは有機酸と併用することで効果が上がります。
また、バッファー(緩衝液)としての効果もあります。
塩化アンモニウム
コストや入手の容易性を考えると塩化アンモニウム(塩安)と同じアンモニア態窒素の硫酸アンモニウム(硫安)でも構いません。
但し、紅色非硫黄細菌は硫酸イオンを含む培地よりも塩化物イオンを含む培地の方が良いと言われています。
塩化マグネシウム
硫酸マグネシウムを使用する場合もありますが同量ではマグネシウムイオンの数は少なくなります。
塩化物イオンと硫酸イオンの関係は上記のとおりです。
酵母エキス
海外のRhodopseudomonas palustris純粋株を謳うメーカーには培地に多用される酵母エキスやペプトンに対して雑菌の増殖を助長すること、悪臭の原因になることから否定的にとらえるところがあります。
酵母エキスには紅色非硫黄細菌に必要な(種により不用)成長因子が多く含まれているため使用されます。
この外因性成長因子は主にビタミンB群と捉えることができ酵母エキスを種毎に異なる必須ビタミンB(パラアミノ安息香酸、ビオチン、チアミン、ナイアシンなど)などに置き換えることでより純粋培養に近づけることが出来るかもしれません。
但し残念なことにR.palustrisの場合はパラアミノ安息香酸(葉酸分子)が必要とされる半面、酵母エキスの接種が成長促進に効果があるためその他の成長因子も必要になるかもしれません。
今後の研究課題としたいと思います。
培養のコツ
砂糖漬け保存の原理
食品を砂糖(塩)に漬けて結合水を増やし自由水を奪うことで微生物の増殖を抑える保存方法があります。
また、高張液中に置かれた細菌は細胞内の水分が染み出し原形質分離が起こります。
特にグラム陰性菌は原形質分離が起こりやすいと言われています。
等張液を超える濃度の培養は紅色非硫黄細菌の増殖が抑制されるため最初の3日は1%未満の濃度で培養する方法があります。